エンゲージメントの効果検証
GPIFは、「スチュワードシップ活動・ESG投資の効果測定プロジェクト」の一環として、「エンゲージメントの効果検証」を実施し、報告書を公表しました。また、本プロジェクトの内容を取りまとめた論文(「わが国のエンゲージメントの実態分析と効果検証」)が、証券アナリストジャーナル誌(2024年8月号)に掲載されました。
証券アナリストジャーナル誌掲載論文(*) [PDF:770KB]
GPIFは、国内株式の運用委託先に対し、長期的な企業価値の向上につながる建設的な対話(エンゲージメント)を積極的に行うよう求めています。このたび、GPIFの国内株式の運用委託先21ファンドが、2017年度から2022年度(注1)に行った26,792回、延べ48,077テーマのエンゲージメントの記録を用いて、その効果を因果関係も含めて統計的に推定する手法の一つである「差分の差分法(DID)(※)」を応用することにより検証しました。なお、これほどのファンド数・対話件数について、網羅的に分析した先行研究は存在しません。
この結果、気候変動に関する対話では、対話内容に直結した脱炭素目標の設定の増加などと共に、PBRやトービンのQといった企業価値指標の改善が確認されました。また、取締役構成・評価に関する対話では、独立取締役人数の増加とともに、時価総額や配当込み収益率などの投資収益指標の改善がみられ、エンゲージメントが市場の持続的な成長に貢献していることが示されました。
具体例の一つとしては、取締役会構成・評価をテーマにしたエンゲージメントでは、エンゲージメント対象企業が非対象企業と比べて平均的に時価総額が6%増大したことが示唆されました 。2017年度に同テーマのエンゲージメントを受けた企業は256社、その時価総額合計は約304兆円(注2)であり、当時のTOPIX構成銘柄の時価総額の47%に達します。このことから、エンゲージメントには極めて大きい効果があったと考えられます。
また、当報告書では、大量のエンゲージメント記録を整理することで、運用会社がどのようなテーマで、どのような立場の方と対話を行ってきたのか、どのような企業を対話相手として選んできたのか、などについても明らかにしています。
この効果検証プロジェクトによって、運用会社のこれまでのエンゲージメントに大きな価値があったことが示されました。これからもより効果的なエンゲージメント活動の実現に向けて、運用会社と共に努力を続けてまいります。
※差分の差分法(DID)とは、把握したい処置の効果について、介入群(処置を実施した群)と対照群(処置を未実施の群)で事前事後の差をそれぞれ取り比較することで、処置効果を推定する方法です。当報告書においては、介入群はエンゲージメントが実施された企業群、対照群はエンゲージメントが実施されていない企業群となります(注3)。
(注1)2022年度については、2022年12月末まで
(注2)2018年3月末時点
(注3)当報告書の実際の分析においては、傾向スコアマッチング法により、介入群と対照群を類似した特徴を持つような調整を行っています。
(*)本稿は、『証券アナリストジャーナル®』2024年8月号に掲載された論稿を同誌の許可を得て、転載したものです。本論稿の著作権は日本証券アナリスト協会®に属し、無断複製・転載を禁じます。