1. 年金積立金の意義

要約

  • 公的年金積立金の基本的な意義は、「保険料のうち年金給付に充てられなかったものを年金積立金として運用し、年金財政の安定化に活用する」ということです。
  • 平成16(2004)年年金制度改正により、公的年金制度の財政運営方式の見直しが行われ、おおむね100年の間(財政均衡期間)で給付と負担の均衡が図られることとなり、保険料の将来水準の固定と給付水準の下限が決められました。
  • 財政運営方式の見直しに伴い、年金積立金は、財政均衡期間終了時に給付費1年分程度を保有することとされ、「積立金運用による運用収益と積立金の取り崩しにより、保険料水準を固定することと給付をできるだけ高い水準に保つという考え方の両立を図りながら、年金財政の安定化に活用する」という形で、年金積立金の意義がより明確になりました。

(1)公的年金制度と年金積立金

わが国の公的年金制度の現状

公的年金積立金の管理・運用は、公的年金制度(本欄では特に断らない限り厚生年金と国民年金の両制度を指します)の運営の一環ですので、年金積立金運用のあり方を考える場合、まず、公的年金制度の現状や公的年金制度における年金積立金の位置付けなどについての理解が欠かせません。

公的年金制度は、一般に、「高齢」、「障害」、「死亡」という、個人では避けることが困難なリスクに備え、みんながお金を出し合い、いざという時に生活を支える、社会的な支え合いの仕組みとして国が運営する制度であり、わが国の公的年金制度は、(ア)国民皆年金(すべての国民が国民年金制度に加入し基礎年金給付を受ける仕組み)、(イ)社会保険方式(加入者が保険料を拠出し、それに応じて年金給付を受ける仕組み)、(ウ)世代間扶養(基本的には現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという考え方で運営)という3つの大きな特徴を持っていると言われています。

現在、公的年金制度は、わが国の社会において広く定着し、特に、高齢期の生活の基盤を支える仕組みとして、非常に重要な役割を果たしています。たとえば、年金は高齢者世帯の収入の7割を占め、国民の4人に1人は年金を受給する状況にあります。また、給付される公的年金の総額は、国民所得全体の1割以上を占めるに至っています。一方で、少子高齢化の急速な進展などに伴って、現役世代の保険料負担も増加してきており、他の欧米先進諸国同様、公的年金制度を支える力と給付のバランスを取れる仕組みにし、将来にわたって持続可能な制度を構築していくことが社会的に大きな課題となっています。

平成16(2004)年年金制度改正

急速な少子高齢化が進行する中で、平成16(2004)年の年金制度の改正(以下「16年改正」という。)が行われる前の時点では、仮に、年金保険料の引上げだけで改正前の制度を続けていたとすれば、厚生年金保険料率(労使折半なので、事業主と被用者がそれぞれ半分を負担)は13.58%から25.9%へ、国民年金保険料は13300円から29500円(2004年度価格)まで引き上げねばならず、一方、年金給付の見直しだけで制度を続けていたとすれば、高齢者が既に受給している年金と今後給付を受ける年金を、一度に3~4割も抑制しなければならない状況が見込まれていました。

このため、16年改正においては、次の4つの柱を組み合わせることにより、将来の保険料の際限ない上昇という不安を払拭しつつ、社会経済と調和した持続可能な制度の構築を目指した制度の見直しが行われました。

ア.保険料水準固定方式の導入
保険料水準は、平成29(2017)年までに厚生年金は18.3%、国民年金は16900円(2004年度価格)に段階的に引き上げた上で固定されます。
イ.給付水準を自動調整する仕組み(マクロ経済スライド)の導入
通常の場合、年金を初めて受給する場合には1人当たり手取り賃金の伸びを反映して年金額が裁定され、新規裁定後は物価の伸びに応じた改定が行われますが、固定した保険料負担の範囲内でバランスが取れるようになるまでの間は、年金額の計算に当たって、賃金や物価の伸びをそのまま使うのではなく、被保険者数の減少や平均寿命の伸び等が年金額の改定に反映され、改定率が手取り賃金や物価の伸びよりも抑制されます。
ウ.基礎年金国庫負担割合の引上げ
基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げることと併せ、引上げの道筋が法律上に明記されました。
エ.積立金の活用
年金の財政運営方式として、賦課方式を基本としつつ、おおむね100年間で財政均衡を図ることとし、積立金は、その財政均衡期間の終了時に支払準備金程度(給付費の1年分程度)を保有することとされました。
これにより、固定された保険料水準の下で給付水準をできるだけ高く保つために、積立金が有効に活用されることになります。

財政運営方式の見直しと年金積立金

16年改正のうち、積立金のあり方に特に大きな影響を及ぼすのは、上記エの財政運営方式の見直しですが、改正前は、将来にわたり永久に年金財政を均衡させるという考え方(永久均衡方式)に立ち、常に給付費の相当の年数分の積立金を保有するという方式だったものが、改正後は、概ね100年間で財政均衡を図るという考え方(有限均衡方式)に立ち、財政均衡期間の終了時に給付費1年分程度を保有するという方式に変更されました。

16年改正により、我が国の公的年金制度において世代間扶養の考え方が徹底されることとなり、積立金の意義もより具体的に明確になっていると考えられます。すなわち、年金積立金運用による運用収益と積立金の活用により、保険料水準を固定することと給付をできるだけ高い水準に保つという考え方の両立を図りながら、年金財政の安定化に寄与するという今後の道筋が示されました。

(2)年金積立金の意義

わが国の公的年金制度は、社会全体で連帯し、現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという世代間扶養の考え方を基本として運営されており、給付に必要な資金を予め全て積み立てるという積立方式ではなく、現役世代の保険料を給付に充てる賦課方式を基本としています。

一般に、賦課方式の年金制度においては、支払準備金的なものは別として、多額の積立金を保有する必要はありませんが、厚生年金制度がもともと積立方式によりスタートしたという経緯もあり、給付に充てられなかったものが積立金として積み立てられていた中で、将来的に高齢者世代の割合が高まることから、「保険料のうち年金給付に充てられなかったものを年金積立金として運用し、年金財政の安定化に活用する」ということが、公的年金制度における年金積立金の基本的な意義とされています。

16年改正の前後を通じ、このような年金積立金の基本的な意義に変更はありませんが、16年改正により、わが国の公的年金制度は、これまで以上に、世代間扶養の考え方が徹底されるとともに、財政均衡期間中における年金積立金の意義も、より具体的に明確になったものと考えられます。すなわち、「積立金運用による運用収益と積立金の取り崩しにより、保険料水準を固定することと給付をできるだけ高い水準に保つという考え方の両立を図りながら、年金財政の安定化に寄与する」ということが16年改正以降の年金積立金の具体的な意義と考えられます。

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